健康のためだとか、美容にいいとか言われて、最近ルイボスティーなんてものを飲んでいる。独特の薬っぽい香りを鼻で利かせながら、休日の昼下がり、だらだらと動画サイトを眺めていたときのことだ。
おすすめ機能というのがある。私の好みを勝手に分析して、「お前、こういうのが好きなんだろ」と次々に差し出してくる、ありがたいような、少しお節介な機能だ。いつもなら親指ひとつでヒョイと飛ばしてしまうのだが、その日はなんとなく、手が止まった。
流れてきたのは「スパイラルライフ」というバンドの曲だった。
調べてみると、一九九三年デビューで、九六年には活動休止している。九三年といえば私が生まれた年だから、いわゆる「ひと昔前」の音楽だ。メンバーは車谷浩司さんと石田小吉さんのお二人。お顔も存じ上げない、初対面のようなものだったが、妙に耳に残る。気づけばルイボスティーが冷めるのも忘れて、私はそのバンドのことを懸命に検索していた。
手に入れたのは、彼らの三年間の活動を一枚にまとめたというベスト盤だ。説明書きには、ラスト&ファーストの決定盤、なんて仰々しいことが書いてある。
聴いてみると、これが悔しいけれど、いい。ビートルズのような、ブラーのような。イギリスの曇り空みたいな匂いもするし、プライマル・スクリームやスマッシング・パンプキンズのような感触もある。検索窓にバンド名を入れると、「パクリ」などと不穏な言葉もちらほら出てくるけれど、昔の音楽に敬意を払いつつ、自分たちの音にしている感じがして、私は嫌いじゃなかった。むしろ、そのあたりの洋楽が好きな人なら、膝を打つような音なのだ。
けれど、私が本当に参ってしまったのは、曲の良さよりも、車谷浩司さんの「声」だった。透き通っていて、きれいな声だ。歌もギターも、文句なしに上手い。
なのに、ちっとも安心できないのである。聴いていると、みぞおちのあたりが、ざわざわする。不安定というわけではない。むしろ、あえて不安を含んだまま、平然とそこに立っているような声なのだ。上手い、きれい、だけでは終わらない、心の奥底を揺さぶる何かがそこにはあった。
気になってその後の足取りを追ってみると、彼は「AIR」というバンドを経て、どんどん深みにはまっているようだった。もう少しうまく立ち回れば、大ブレイクして左団扇の生活だってできたかもしれないのに、わざわざ暗いアルバムを出してみたり、流行り廃りの激しい道をふらふらと歩いてみたり。今はひっそりと弾き語りをしているそうだが、なんと「過去の曲はやらない」と言っているらしい。なんという天邪鬼だろう。
普通、過去の栄光があれば、それに少しは縋りたくなるのが人情というものではないか。実際、今の技術でリマスターされた音源は、二十年以上前のものとは思えないほど新しくて、格好いい。
今またスパイラルライフをやれば、「SATELLITE LOVERS」のように間違いなく再評価されるはずだ。それでも、やらない。精神がすり減るような危うさと、どうしようもない潔癖さが同居している。そんな不器用な生き方を見せつけられると、他人事とは思えなくなってしまうのだ。
このベスト盤は、決して聴く人を明るい気持ちにはさせない。世の中には「前を向け」「頑張れ」と背中をバンバン叩いてくるような音楽があふれているけれど、人間、そんなにいつも元気でいられるわけがない。
夜、部屋の明かりを少し落として、ひとりで聴く。この音楽は、無理に私を励ましたりはしない。ただ、暗がりの隣に座って、何食わぬ顔でそこにいてくれるだけだ。人生には、そういう時間が必要なのだと思う。冷めきったルイボスティーを飲み干して、私はもう一度、再生ボタンを押した。どうやら今夜は、このざわざわした気持ちのまま、眠ることになりそうだ。
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