世の中、なにかと「早く」とか「たくさん」とか、効率ばかりが求められる。

本を読むにしたって、「年間一〇〇冊」だの「速読術」だのと、数字やスピードを競うような風潮があって、なんだかちっとも心が休まらない。私なんぞは根が怠け者だから、そんなに急き立てられると、読む前から「もう、いいです」と白旗を揚げたくなってしまうのだ。

そんな私が、最近オーディオブックというものを聴いている。最初はやっぱり、「定額なのだから聴かなきゃ損だ」という、浅ましい貧乏根性が頭をもたげた。隙間時間という隙間をすべて音声で埋め尽くし、知識を詰め込もうと鼻息を荒くしていた時期もあったけれど、すぐに疲れてしまった。

当たり前である。人間の耳はふたつしかないし、脳みその容量だって決まっているのだ。それに、お気に入りの音楽だって聴きたいし、ただぼんやりと窓の外を眺めていたい時だってある。

いろいろと試した結果、私にとっての適量は「月に一冊」だとわかった。なんだ、たった一冊か、と笑われるかもしれない。でも、掃除機をかけながら、あるいは電車に揺られながら、ひと月に一冊分の物語や言葉が体に染み込んでいく感覚は、意外と悪くない。「読書」というよりは、「耳の保養」に近いかもしれない。

というわけで、ここでは私が毎月選んだ「今月の一冊」について、つらつらと書き連ねていこうと思う。

立派な書評や、詳しいあらすじ紹介なんてものは書かない。というか、書けない。そういうのはもっと頭の良い、几帳面な方にお任せする。私が書くのは、「どういう気分のときに合うか」とか「どんな人に向いていそうか」といった、極めて個人的な感覚の話だ。「なんとなく会社に行きたくない朝に聴くといい」とか、「煮物が美味しくできそうな声だ」とか、そんな具合である。

それから、これは一応ことわっておくけれど、ここで紹介した本には、Amazonのアソシエイトという仕組みを使わせてもらう。あなたがもし「おっ、いいな」と思ってリンク先から試してくれると、私にチャリンと紹介料が入る。それは私の次の本の購入費になったり、あるいはスーパーでちょっといい豆腐を買う足しになったりする。そういう正直な下心も含めて、お付き合いいただければ幸いだ。

もちろん、無理に聴くことはない。まずはサンプルを聴いてみて、「あ、この人の声、生理的に無理かも」と思ったら、やめておいたほうがいい。耳からの情報はダイレクトに神経に触るから、声の相性は結婚相手と同じくらい大事なのだ。

たくさん聴くよりも、ちゃんと選ぶ。欲張らず、でも確実に、一冊ずつ積み上げていく。そんなのんびりしたペースで、この「耳の読書」を続けていこうと思っている。お茶でも飲みながら、たまに覗いてみてほしい。

【これまでの記録】

【この連載の歩き方】
だいたい毎回、こんな順番で書いています。

  1. 今月これにした理由(直感だったり、必要に迫られてだったり)
  2. 向いている人/向かないかもしれない人(毒にも薬にもなるのが本ですから)
  3. 聴くのに合う場面(散歩中か、ふとんの中か)

音楽も聴くし、生活もある。だからこその「月イチ」ペース。どうぞよしなに。